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研削加工のパラダイムシフト。立形研削盤が生まれた瞬間
円盤状の砥石を高速で回転させ、加工物を削っていく研削盤。様々な製造現場で古くから活躍してきたこの機械は、仕上げなど高精度の加工に使用されてきました。ただし、加工物が大型で重くなると、セッティングに労力も時間もかかってしまうという難点がありました。水平がうまくないなら、垂直にしてみては――それは、直感でした。計算も根拠もありません。が、生み出した「立形研削盤」は、作業を容易にしただけでなく、驚異の加工精度をたたき出しました。
創業者・会長
渡辺 登
ひらめきから生まれた
立形研削盤の開発のきっかけは、ちょっとした愚痴でした。創業間もない太陽工機を訪れた音響メーカーのお客様が「大型の金型に高精度な加工が必要なのだが、重くてかなわない、チャッキングに時間がかかるんだ」と、苦労話をしていました。そこで、「重いものを横にするから大変なんだ。立てて加工すればいい」と、パッとひらめいたままを語りました。
すると、2週間後、商社から連絡が入りました。「先日話していた機械の見積りを出してください。」発想はあるもののまだ設計していない機械でしたが、1台3,000万円を超える見積もりを出し、同時に、200mmの穴に対して真円度2μm(マイクロメートル=1/1000mm)の精度を保証する契約を結びました。商社からは厳しい条件だが本当に大丈夫か、と、念を押されましたが、やってみないとわからないと答え、早速設計に着手しました。1989年のことです。
立形研削盤量産初号機
実験機が完成しテストしてみると、予想より一桁低い、0.6~0.8μmの真円度が出ました。お客様も商社も驚いていましたが、一番驚いたのは私自身です。作業が楽になるように意図して設計しましたが、精度を上げるための工夫はしていなかったのです。
世界が技術を認めた
精度が上がった理由を考え、思い至ったのは重力の存在でした。加工物を横方向に取り付ける従来の研削盤では、重力を受けて加工物がたわみ精度が下がりますが、立形研削盤では立てて置くので、重力に逆らわず、高精度が出せたのです。この精度のおかげで、音響メーカーには4台を販売することができました。
大変だったのはここからです。メリットは大きいのに、地方のベンチャー企業が開発した、これまで世の中になかった機械タイプで、信用が得られず、認知度もなかったため、販売は苦戦しました。それでもトップ企業との取引にこだわり、価格ではなく高精度を売るという姿勢は貫きました。2005年に日本機械学会賞を受賞し、2012年にはJIS規格に「立て形内面研削盤」という新カテゴリーが生まれるなど、広く認められるようになり、売上も上昇しました。欧米のジェット機エンジンメーカーとの取引も始まりました。
私はこの機械について特許は取りませんでした。現状に満足してはいけない、常に進んでいかなければならないという思いと、たとえ真似されても性能や品質では絶対に負けない自信があったからです。開発から30年が経ちますが、立形研削盤市場ではトップメーカーとなり、他の追随を許していません。
チャレンジが開発を進める
立形研削盤は、2010年に転機を迎えました。それまで受注生産オンリーだったところに、汎用機であるVertical Mateシリーズを加えたのです。ロット生産でコストを抑えた結果、それまで大手企業中心だったユーザー層のすそ野を広げることができました。多くの工程を1台で行える「複合化」、お客様の工場スペースに合わせた「小型化」、さらに、小型の立形研削盤にロボットを装着した「自動化」など、考えたことはすべて形にしてきました。ここからは、次の世代、若い社員たちの時代です。
開発にはリスクが伴います。しかし、リスクを恐れて開発へのチャレンジをやめてしまったら、その会社に未来はありません。失敗もするでしょうが、失敗を乗り越えたあとの成功は技術者にとっては大きな醍醐味。忘れられない達成感を味わえます。柔軟な発想やひらめきを形にし、ビジネスにつなげる――その姿勢を継いでいってほしいと願っています。
プロフィール
創業者・会長 渡辺 登
- 1986年
- 有限会社太陽工機創業、同社代表取締役社長就任
- 1990年
- 立形研削盤の開発に成功
- 2019年
- 当社代表取締役会長就任
※役職・内容は2020年9月取材当時のものです。
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